自らの“秘蔵っ子”として埼玉に茶谷容疑者を送り込んだ岡光氏の影響力をうかがわせる内容だが、
岡光氏自身の名がひんぱんに登場するのは、選挙の前哨戦。自民党の公認を取り付ける戦いだった。
激しく党の公認を争ったのは「日本一若い市議会議長」として知られる
浅野目義英・上尾市議会議長(三八)と、茶谷容疑者だ。
浅野目氏は、自民党の福永信彦代議士の後ろ盾を得、二十五歳で上尾市議に初当選。
三十八歳の若さで議長を務め、地元での知名度は茶谷容疑者をはるかにしのいでいた。
党公認候補は上尾支部で決めることになっていたが、調整は難航。
「浅野目は知っているが、茶谷って誰だ」の声も市議の間から出て紛糾した。
水面下での公認一本化工作も進まず、今年七月には、上尾市内の市議宅で茶谷容疑者と浅野目氏が会い、
直接対決するシーンもあった。その場にいた市議はそのときの模様をこう話す。
「会議は夕方五時から六時間に及びました。『絶対にあんたを応援することはない』と
浅野目氏側が突っぱねたのに対し、茶谷容疑者は二、三言話しただけ。
印象的だったのは『私はハメられたんですね』とボソッといったことでした」
茶谷容疑者は、平成四年四月から昨年三月まで埼玉県高齢者福祉課長。
その時期、小山容疑者の社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームには補助金三十億円以上が支給された。
うち上尾市内の特養ホーム分は十億円以上。
上尾市は「茶谷容疑者が自分にとって有利な所と考えても不思議はない場所」(関係者)のはずだった。
加えて自民厚生族に通じる岡光氏の顔、補助金で太った小山容疑者の金があれば、すべてが順調に進むはずだった。
「それが選挙区にきてみると知名度抜群の若者(浅野目氏)がいて思うようにいかない。
それが『ハメられた』という一言に表れたのではないか」と市議の一人はいう。
思うようにいかない選挙区の動きに慌てたのは岡光氏も同じ。
七月中には、茶谷容疑者と、その選対会計責任者、県議らが厚生省に岡光氏を直接訪ね、
公認決定にまつわるゴタゴタを報告させられたという。
結局、支部では最後まで結論が出せず、党県連の裁定で八月六日、茶谷容疑者を公認候補に決定。
茶谷容疑者は同月、厚生省を退職して選挙に臨んだ。
落選は、公認争いが尾を引き地元が一本化できなかったためという。
茶谷、小山両容疑者、そして岡光氏の凋落はここから始まった。
いや、関係者によれば警視庁の内定はすでに一年前から始まっていたというから、
茶谷容疑者の「ハメられた」は逮捕に至る今の事態までを予測してのものだったかもしれない。